トラクターやコンバインなど、今日の農業機械のルーツをたどっていくと、鍬や鎌などの道具類、自然の力を利用した水車などの装置、牛や馬などの家畜、最終的には人の手足にたどり着きます。
こうした能力は、現代から見れば、あまりに非力で未熟なレベルかもしれませんが、そこには、先人たちの知恵と工夫の跡をうかがうことができます。
農業先進県と言われる岡山県。各地で営々と取り組んできた農業の足跡を探訪します。
トラクターやコンバインなど、今日の農業機械のルーツをたどっていくと、鍬や鎌などの道具類、自然の力を利用した水車などの装置、牛や馬などの家畜、最終的には人の手足にたどり着きます。
こうした能力は、現代から見れば、あまりに非力で未熟なレベルかもしれませんが、そこには、先人たちの知恵と工夫の跡をうかがうことができます。
農業先進県と言われる岡山県。各地で営々と取り組んできた農業の足跡を探訪します。
〒704-8165岡山市東区政津1032-3(政田コミュニティハウス内)
TEL 086-948-2948
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政田民俗資料館は、江戸時代の干拓地・沖新田のほぼ中心部にあたる、岡山市政津の「政田コミュニティハウス」にあります。政田民俗資料館は地元の方々の手により収集された約1500点あまりの農具・民具類が収められています。
資料は昭和44年頃から収集し、小学校の空き教室に集められ、「政田郷土館」として公開。平成8年、政田コミュニティハウスの新築とともに、その附属施設として政田民俗資料館も新築・移転。現在、資料の管理は岡山市教育委員会と共同で行われています。平成14年には235点の資料が、岡山市指定重要有形民俗文化財に登録されました。
沖新田は1692年(元禄5)に作られた、東西約7km、南北約4km、面積約1900へクタールの干拓地です。海よりも低い干拓地であるため、生活・農業用水の確保や塩害・水害対策には多くの苦労がありました。農作物は稲を中心に、い草や大麦のほか、綿や豆など塩害に強い作物なども栽培されていました。
ここで使われてきた農具類は、岡山県南部に多く見られるものと大差はありませんが、里山の農村と比較して、土壌が異なり、また低湿地地帯であることから、 特徴的な形状のものを見ることができます。 また、この地域には低湿地地帯特有の「堀田(ほりた)」が多くみられました。この堀田を年々整備するための道具として、「箱じょれん」「つる桶」「鋤鍬」「水車」などがありました。
この地域における特徴的な農具のひとつが「つる桶」です。これは堀田の泥をすくい上げる道具。木桶の左右上下に長い縄が取り付けられており、左右それぞれの縄を一人が堀の中、もう一人が堀田の上で、夕イミングを合わせて縄を引いたり緩めたりしながら、泥をすくい、放り上げるものです。地味な重労働だったことでしょう。
こうした作業も、昭和30年代に入ると農業の機械化が進み、作業風景は一気に消滅したのでした。低湿地地帯ゆえの土壌改良。先人たちの奮闘努力ぶりを想像するにつれ、本当に頭の下がる思いです。
※館内の写真撮影は可能ですが、撮影したものをウェブで公開することは不可。ですので、写真は資料より複写、転載しています。 ※写真はいずれも「沖新田の文化財」岡山市教育委員会、「政田民俗資料館収蔵資料目録」岡山市教育委員会文化財課、「干拓地・政田の民俗」岡山市沖新田政田地区民俗調査報告書編纂委員会より。
館内の様子
政田コミュニティハウスに併設してあり、きれいに分類管理、展示されています。低湿地地帯での工夫と努力の土壌づくり、農業の取り組みの様子が、わかりやすく紹介されています。水甕、水こし甕(岡山市指定重要有形民俗文化財)
水道のない時代、それぞれの家では、用水路から汲んだ水を濾すために使われました。甕の中には砂利や砂が詰められており、ろ過する仕組みです。岡山市指定重要有形民俗文化財の数々
入ってすぐのところに「箱鋤簾」「つる桶」などが展示されています。いずれも、今は使われなくなった貴重な資料です。堀田
海面干拓地や河川の中州など、近世以降に低湿地地帯の新田開発や土地改良の方法として、広く用いられていました。政田地区にわずかに残っていた形跡も、ここ数年で姿を消しました。つる桶作業(昭和30年代)
水路の泥の部分をすくい上げる作業風景。二人一組で行われた。つる桶(岡山市指定重要有形民俗文化財)
水路の泥をすくい上げるために、平べったい楕円の形をしている。縁の部分は丸くすり減っています。箱じょれん(大正時代)
堀田の泥をすくい上げるのに使い、大きいほうは5人引き、小さいほうは3人引きといわれた。いずれもかなりの重量があった。かごじょれん(岡山市指定重要有形民俗文化財)
堀田や用水路の泥や砂をすくい上げる道具。長い柄の先につけて使用。受け口は金属板で補強されている。すきぐわ(岡山市指定重要有形民俗文化財)
堀田の縁を、この「すきぐわ」を使って丁寧に切り、形を整えるとともに、土が流れないように固めた。