農業先進県おかやま2「郷土美術館めぐり」
温故知新

トラクターやコンバインなど、今日の農業機械のルーツをたどっていくと、鍬や鎌などの道具類、自然の力を利用した水車などの装置、牛や馬などの家畜、最終的には人の手足にたどり着きます。
こうした能力は、現代から見れば、あまりに非力で未熟なレベルかもしれませんが、そこには、先人たちの知恵と工夫の跡をうかがうことができます。
農業先進県と言われる岡山県。各地で営々と取り組んできた農業の足跡を探訪します。


第15回

勝北歴史民俗資料館

〒708-1205 津山市新野東1126
TEL(0868)36-2101(勝北公民館内)
※来館の際は、事前に勝北公民館へ申し込みが必要です

休館日  日曜日、祝祭日、年末年始
開館時間 平日/9:00〜17:00
土曜日/9:00〜12:00
入館料 大人100円・学生50円
駐車場 有り
勝北歴史民俗資料館
厳しい自然条件の中で取り組んできた足跡の数々

岡山県北の日本原に近い、旧勝北町に勝北歴史民俗資料館はあります。
ここに収められた農具や民具について、同館の古いパンフレットには次のような紹介文があります。
「勝北地域の北にそびえる那岐連峰は、美しい景観を誇っていますが、その裾野に住む人々は水不足に悩み、広戸風(ひろとかぜ)におびえてくらしてきました。先人たちは、ため池をつくり、木背で家を守り、養蚕で家計を支え、この郷土を築いてきました。これらの労苦をしのばせる生活民具、貴重な文化遺産を後世に伝えるとともに、文化財保護心を育てるため、勝北町民俗資料館に保存展示することにした」

地域の人に絶賛された、使い勝手と性能

近くに大きな川がなく、農業に従事する人にとって、水の確保は常に大きな課題であり続けました。農業用水を確保するため、古くからたくさんのため池が作られました。その数、120あまり。今も90ほどのため池が現存します(前民俗資料館長さん談)。
厳しい条件ゆえに、農作業はできるだけラクに効率よく行いたい・・・。そんな願いの中で、地域の人々から圧倒的に支持された農機具があります。それが「桜式うしんぐわ」。旧勝北町桜部落の竹花さんという人が工夫を重ねて製作した、牛にひかせる犂(すき)です。現代風に言えば、犂の形状に独特のノウハウが込められた一品。牛にひかせる犂は全国に数々ありますが、この「桜式うしんぐわ」は土に深く刺さり、かつ、効率よく反転できる性能が受けて、美作エリア一円に普及。年間300-500台を製作し、生産が追い付かないほどでした。
匠(鍛冶屋)による一品一品手作りの農機具。農家の人々の期待にそうべく、懸命に作ったであろうその心意気は、同じもの作りにかかわる者として、深く共感するところです。

後世に伝えていくことの大切さと難しさ

今回の取材では勝北公民館にご協力いただきました。常に開館しているわけではなく、また、わざわざ前民俗資料館長さんにもお越しいただき、収蔵庫の中もご案内いただきました。お二人からは、先人から預かったこれらの品への愛着と責任感を強く感じました。
お話をする中で、ここに収蔵された品々が使われていた当時のことを知る人が少なくなり、先人たちの取り組みや営みを、次の世代の人たちにどう伝えていくか、という課題が常に頭をよぎると語っておられました。いずれにしろ、これらの品は、地域ならではの生活が凝縮された貴重な文化財。ひとつひとつの造形に秘められたストーリーに触れることで、郷土愛を高めてもらいたいものです。

当社で製造している
農業機械部品の一例
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