過去のおいんでんせえ
バックナンバー:第四幕『岡山の郷土品』
 張り子

桜の季節を迎えると、人形店の店頭には、五月人形や愛嬌のある張り子の虎が姿を見せます。男児の初節句に虎の張り子を送る習慣は、古くから西日本一帯で見られ、岡山でも盛んに行われてきました。子や孫の健やかな成長を願う肉親の心情を反映した、凛々しくも愛嬌のある首振り玩具。県内では倉敷張り子と邑久(おく)張り子が有名です。
明治初期に製作し始め、現在、四代目が引き継いでいる倉敷張り子。全国で生産される張り子の大半は、機械化によって作られているのが多い中、あくまで手作りにこだわります。
「機械で作るのも、手作りも、出来映えに特に変わりはないでしょう。ですが、手間と時間をかける分、味わいがあると言っていただいています」。ひとつひとつ微妙に違いがあるのは、手作りならでは。私たちの物づくりとは、まったく事情が異なる世界ですが、当然、我々の製品にも「顔」があり、いずれも精悍で凛々しい表情をしているといえば、かなりの「親馬鹿」ぶり発揮でしょうか。
ちなみに張り子の虎。虎らしく、怖い顔をしたものは売れないそうです。どちらかというと、強そうでありながらも穏やかで、どこか笑っているような、ユーモアのある表情を探し選ぶそうです。これも親心の反映なのでしょう。日々、機械と手業で完璧を求め、精度と格闘している我々からは、ちょっとうらやましい気もする伝承文化の仕事場です。