過去のおいんでんせえ
バックナンバー:第四幕『岡山の郷土品』
 吉備津(きびつ)のこま犬

手仕事作品には、ほのぼのとしたぬくもりがあふれています。生産性や合理性ばかりが追求され、なにかと慌ただしくも先行き不透明な時代だからこそ、オフタイムは陶器などの手作り古美術品を手の中に転がしてその感触を楽しんだり、作者の筆運をなぞるように絵画をながめたり、また、苔玉などの小さなグリーンが描く微細な造形美を鑑賞したりと、自分なりに感じる<ぬくもり>との対話を楽しむ方が多いようです。
「機械もの」でも、ちょっと古いバイクや車、時計、それとか、昭和の香り漂うデザインをした電気製品など、人間味あふれる造形に、えもいわれぬ温かさやノスタルジックを感じる方も多いことでしょう。
素朴で、手仕事のぬくもりあふれる岡山県の郷土玩具の代表といえば「吉備津のこま犬」。全長が3センチにも満たない、土をきゅっと握って簡単に彩色を施した小さな手捻りの土人形です。じつはこれ、桃太郎のモデルとなった大吉備津彦命(きびつひこのみこと)を祭っている吉備津神社のお守り。立ち犬、座り犬、鳥の三体でひと組。犬は盗難や火難除け、鳥はなにかというと、食べ物がのどにつかえないまじないという、その姿形同様ほのぼのとした願掛けのお守りです。
私たちが作る製品は、金属をさまざまに加工した無機質なもの。見ようによっては、工芸品・オブジェに見えなくもありませんが、それは、理詰め世界から生まれた必然の造形。「ほのぼの」路線とは対極にありながら、その内には、精度を極め、どこまでも完成度を追い求める現場技術者たちの熱い情熱、体温あるテクノロジーが息づいているのです。
私たちが製品に込めた願い・・・。それは最終製品を使うエンドユーザーの方々に、安心と、満足と、発展を。