過去のおいんでんせえ
バックナンバー:第四幕『岡山の郷土品』
 備中神楽面(びっちゅうかぐらめん)

300年の歴史を誇る備中成羽愛宕大花火(びっちゅうなりわ・あたごおおはなび/高梁市成羽町)。吉備高原の山間の小さな町が、一年で一番にぎわいを見せる夜です。都市部の夏祭りの花火大会のように、大きなスポンサーがバックアップしているわけでもなく、大会の運営はもちろん、目玉の仕掛け花火づくりも地元民のたくさんのボランティアが、連日汗水流して作るという、まさに手作り形式。昔ながらに、近隣住民総出で協力しあい、楽しむスタイルが守り貫かれているところに、この花火大会の価値はあります。
さて、花火が打ち上げられている夜の成羽川河原の一角で、まるで異次元世界のように舞い踊られている備中神楽。この日だけでなく、岡山県西部の備中地方で広く親しまれている民俗芸能です。花火が終わり、そぞろ見物客が帰った後も真夜中まで舞いは続き、神楽好きたちは星空の下、飽きることなく舞台を取り囲みます。山間の町で、社で、神楽を目にしたことのある方なら、この備中神楽面を見るたび、そのとき体験した一種摩訶不思議な世界にタイムスリップすることでしょう。
営々と受け継がれていくもの。それは、単に技術でもなく、形式美でもなく、時を超えて先人たちと共有しあう、心の結びつき。私たちもまた、時や国を超え、広く共感されるテクノロジーを営々と磨いていきたいと思うのです。