パッと見、なんてことはない団扇。一本の女竹を使った優雅な姿形。丁寧な手作り作品であることは手にとってすぐにわかります。ところが、図柄をよーく見れば、おやや・・・。扇面の天の部分に隠し絵のように草書体で俳句が刻まれているではありませんか。おまけに涼しげな図柄は、すかしの技法も取り入れるという、なんともまあ、高度な技術と遊び心が同居した懲りよう。
この撫川うちわ、元禄時代に武士が内職で作っていたのが始めだとか。昭和57年に岡山県伝統的工芸品として指定されました。
我々が作る機械部品は、ぎりぎりの精度を追求する妥協なしの理詰め世界。とうてい、製品に隠し味のような遊び心を忍ばせるわけにはいきません。
であるならば、それを作り出すプロセスに、工夫やひらめき、アイデアを取り入れ、困難な課題も、スキーのスラローム競技のように、しなやかに、ときにダイナミックにくぐり抜けて、モノ作りそのものを楽しみたいと思うのです。
高度な技術を、これ見よがしに表現するのではなく、さりげなく、わかる人にはちゃんとわかる。期待に、それ以上の結果で応える・・・。現代の匠は、かくありたいものです。 |