過去のおいんでんせえ
バックナンバー:第十二幕『岡山の先駆者たち2』
大野昭和斎

日本人と木


日本人にとって木は、常に密接な関係にありました。
森林資源に恵まれたことで、木で家を建て、木を燃料とし、木から大小さまざまな道具を作り出し、暮らしを維持してきました。 暮らしのあらゆる場で恩恵をもたらしてくれる木に対し、人々は感謝の気持ちを抱き、ことに大木は神の宿る神聖なるものとして、信仰の対象にさえなりました。 そんな木を、精神世界の美に昇華させたのが、木工芸です。木を大切に思い、敬い、年輪のひとつひとつに美を感じて挑んで作り上げた作品には、西洋美術には見られない、日本人独特の精神構造が投影されているのです。

昭和の名人たれ


岡山は、木の名人を二人、輩出しています。一人は、日本近代彫刻界の巨匠、平櫛田中(文化勲章受章者、1872-1979年)と、今回ご紹介する木工芸の大野昭和斎。
指物師の家に生まれた大野昭和斎(本名・片岡誠喜男 かたおかせきお)は、職人気質あふれる父に年少時から厳しく教えられ、持てる技術のすべてを伝授されます。また、天性の素質を持つ昭和斎は,生涯、父のほかに一人の師匠も求めず,全て独創で至高の芸術に到達したのでした。
二十代の頃、日本画家の柚木玉邨に才能を見いだされ、「昭和の名工たれ」との意を込めて昭和斎の雅号を授かります。戦後は,彼の理解者の斜陽化などで暮らしは困窮しますが、やがて一躍、注目を集める時が来ます。
昭和40年、日本伝統工芸展に初入選。同43年、同展覧会長賞の最高賞を獲得。同46年からは特待出品を続け,木工芸部門の第一人者の地位をゆるぎないものとしたのでした。
昭和52年には、岡山県重要無形文化財に指定。それから7年度の昭和59年には,独自の杢目沈金技法(もくめちんきんぎほう)を完成させ,国の重要無形文化財(人間国宝)の認定を受けたのでした。「昭和の名工たれ」の意そのままに、卓越した技術で、新たな木工美を切り開いたのでした。

プロフィール
大野昭和斎 おおのしょうわさい(1912-1996年)
1912年 岡山県総社市生まれ。
父で指物師の片岡斎三郎に14歳で師事、指物や象嵌を修行する。指物・象嵌の技術に優れ、作品は箱や文机、卓、飾り棚、小箪笥、盛器、香盆、菓子鉢など。日本画家の柚木玉邨より昭和斎の号を授かる。 1977年、岡山県重要無形文化財木工芸「指物・刳物・象嵌」に指定。1984年、重要無形文化財「木工芸」保持者に認定。勲四等旭日小綬章)。平成4年、倉敷市名誉市民。