イ草の一大生産地だった岡山県
かつて岡山県は、全国一の生産量を誇った、畳表およびイ草製品の一大産地でした。岡山と四国を結ぶJR瀬戸大橋線の線路脇一帯(茶屋町、早島地区)は、一面にイ草田が広がり、刈取り期の夏になれば、走る風に緑がさざ波のように光る光景は、岡山の風物詩でした。
しかし、イ草の一大産地はやがて岡山から九州地区に移り、今ではそのほとんどが中国で栽培・製造され、日本に輸入されています。岡山に数百軒あったと言われるイ草の製造業者ですが、昔ながらの伝統的な方法で栽培、生産を続けているのは、わずか数軒の小規模業者のみ。その方たちの手によって、倉敷伝統の「高級花ござ」はいまも作られ続けています。
染色イ草を使って多色文様織りを開発
イ草は畳表の材料です。無地の畳表に色柄を与えて進化したのが「花ござ」。まだ、デザインという言葉が定着していなかった明治時代に、イ草製品に一大変革をもたらしたのが磯崎眠亀(いそざき みんき)でした。セイロン産の竜鬢莚(りゅうびんえん)をヒントに、イ草を使った精巧緻密な莚の製織を思いたったのが33歳の時。それから足掛け十数年の歳月をかけた明治11年、手織り折込み花筵織機を完成させ、この織機で編んだ色模様のついた筵を「錦莞筵/きんかんえん」と命名しました。彼の功績で、イ草製品は暮らしに潤いをもたらす現代のインテリア製品へと変貌。海外でも人気を高め、岡山県はイ草の一大生産地へと成長するのでした。
彼の功績をたたえ、彼の住宅兼作業場であった建物は「倉敷市立磯崎眠亀記念館」として残され、数々の資料が展示されています。
【倉敷市立磯崎眠亀記念館】
倉敷市茶屋町195番地
開館時間:午前9時〜午後4時30分
休館日:毎週月曜日
入館料:無料
磯崎眠亀(いそざき みんき、1834-1908年)
綿織物で知られる小倉織りを家業とする家に生まれ育つ。織機の改良や発明を重ね、梯型筬を発明。
広組縮織を考案。これにより、緻密な花ござを織ることに成功。錦莞筵(きんかんえん)と名付けた。