世の中、空前の猫ブームである。そのおかげで、殺処分を逃れた捨て猫たちの里親捜しが、例年になくいい具合なのだという。よかった、よかった。
その猫たちに、人々はいったい何を求めているのか・・・。ズバリ、癒やしである。
大都会岡山市にも、他の大都会と同じく「猫カフェ」なる憩いと癒やしの有料スペースがあるそうだが、入場料無料で、時間制限なしで、猫と自由に戯れることのできる、島全体が猫カフェ化している小さな島があるとのことで、さっそく行ってみることにした。
きっとそこは、癒やしのパラダイス。いざ行かん、笠岡諸島の真鍋島へ。
めざすのは笠岡市の沖合にある笠岡諸島の真鍋島である。明治時代から漁村として栄えた歴史を持ち、港町風情を色濃く残していることから、岡山県のふるさと村に指定されている。
笠岡諸島へは、島々を結ぶフェリー便がある。港はJR笠岡駅から5分ほどの距離。
待合室には地元の方に混じって、観光客らしい人もちらほらと。めざす真鍋島へは約1時間。運賃大人1020円。11時20分出航。のんびりと船旅を楽しむことにする。
行ったのは3月半ばなので、船上の潮風は少し寒い。だけど、気持ちいい。なので、デッキで過ごすことにする。船室を覗いてみると、すぐ近くに船長さんの姿。操舵室からの眺めがいいので、許しを得てちょっと横にお邪魔した。
各港に着くと、少量だが荷下ろしがある。島の学校への給食も船で運ばれる。定期便が島の暮らしを支える、大切な交通手段であることを教えてくれる。
潮風、青空、カモメ・・・。いい気持ちだ。
島に着くと、猫めあてのカップルがさっそく写真を撮っている。
飼い猫と野良猫が一緒くた状態だが、どいつも人懐っこい。私も入場無料の猫カフェタイムを堪能したあと、周囲7キロほどの島の探索に出かけるとにした。あちこちに猫がいて、猫を飼っているらしきおばあさんの家には、漁具を黒猫に見立てて、白文字で「ニャンとかなる」の文字がある。やるなあ、おばあさん。
山へ続く道を登っていくと、天神様を祀ってあり、その上には公園もある。お寺があったり、畑があったり、スイセンの花があちこちに咲いていたりと、心落ち着く。路地は狭いが、急ではない。
ゆっくり、のんびり、気ままに歩いていると元の集落に戻った。
山道からは海と集落がよく見える。家々は軒を並べ、寄り添うように建っている。空き家もちらほらあるが、Iターンでこの島に移り住んだ家族もある。船の発着時間にあわせてフェリー乗り場で働く女性もその一人。島にやってきた当時、小学低学年だった子どもはいま大学生に成長したそうだ。
その子どもさんも通ったであろう古い木造校舎に行き当たった。味わいがある。卒業式の日らしく、日の丸がきれいにはためいていた。
この校舎とグラウンド、「瀬戸内少年野球団」(昭和59年)などの映画ロケにも使われた。「私たち、野球、やりましょ」と島の教師役に扮した夏目雅子の白いブラウス姿が目に浮かぶ。
島の反対側にも行ってみたが、餌を与えてもいないのに、一匹の猫が道案内役っぽく、つかず離れずでついてくる。可愛いヤツだ。ありがとな。
風が少し冷たく感じた頃、帰りのフェリーに乗った。
切符売り場には、駅長でも船長でもない猫がたむろしていた。
半日ほどの小さな旅。
いつかまた、無性に行ってみたくなる、まさにふるさと感覚を堪能できた癒やし旅となったのでした。
おしまい。